ご披露下さったのは、586年の伝統を今に受け継ぐ、和泉元彌さん率いる和泉流の皆さんです。
和泉節子さんのご挨拶の後、和泉淳子さんから、狂言の歴史と能楽堂(舞台)の構造について説明して頂きました。続いて、三宅藤九郎さんが登場し、道行(みちゆき。移動を表現する所作)や擬音(犬の鳴き声は「びようびよう」、ノコギリで切る音は「づかづか」など)を実演して下さいました。
そして、いよいよ上演です。
一つ目の演目は、『盆山』。盗人役を元彌さん、某(なにがし)役を淳子さんが務めました。初めこそ表情が硬かった生徒達も次第に笑みをこぼすようになり、意外な結末には、とうとう爆笑してしまいました。
緊張がほぐれたところで、二つ目の演目は、『仏師』。素破(すっぱ)役を元彌さん、田舎者役を藤九郎さんが務めました。こちらでも、次々とコミカルなポーズを取る素破に、生徒達は大笑いしていました。
ワークショップでは、3年次生の有志10名が足袋を履いて舞台に上がり、元彌さんのご指導のもと、狂言の稽古を体験しました。軽妙でいて芯の通った元彌さんのトークが、壇上の10名はもとより、会場全体をも巻き込んで、普段ならば口伝(くでん)でしか教わることのできない、貴重な体験を得ることができました。
名残惜しくも終了の刻限が迫り、最後に、和泉流の皆さんから、ご挨拶を頂戴しました。特に印象深かった部分を、抜粋してご紹介します。
節子さん「今日の公演を楽しんで下さって、ありがとうございました。とても爽やかな生徒さん達ですね。私共は、ずっとどこかで狂言を演じ続けておりますので、ぜひまたご覧下さいね」
淳子さん「令和は、男性も女性も、自分の得意分野で活躍できる時代です。男女で手を携えて、伝統を守り、次の世代へと渡していきましょう。皆さん、学生のうちにぜひ、『好きなもの』を見つけましょう。努力は必ずしなければなりませんが、いつの間にか自分の後ろに道ができていて、きっと『ああ、いい人生だな』と思えるはずですよ」
藤九郎さん「伝統芸能は、一人ではとても生きられない長い時間を、親から子へと繋いできました。今日という日も、長い歴史の一部です。舞台の上では、名前とも年齢とも無関係に、『やらなければならないこと』と『やってはならないこと』があり、自分にその時できることを果たすことで、プロになれるのだと思います。私の師匠は、稽古で、本番と同じ100%の芸を見せてくれました。私に同じようにできるはずはありません。でも、それに100%で応えるのが礼儀であり、そうすることで初めて、見えてくるものがあるのです」
元彌さん「今日の教室で、『狂言がどのようなものか分かった』という方は、お手を挙げて下さい。……では、『狂言が面白かった』という方は? ……ありがとうございます。何を以てして『分かった』と言えるのかと悩んでしまい、最初の質問に手を挙げづらかったという方もいらしたようですが、もし『楽しい』と感じて下さったのなら、『分かった』と胸を張って下さって結構です。なぜなら、狂言は喜劇なのですから。狂言には守り伝えられてきた『型』がありますが、それと一緒に、大切に守り伝えたい『心』があります。目に見えないものにこそ、真っ直ぐ、真っ白な心で向き合いたいですね。今日、皆さんは、600年前の人々と心が繋がりました。彼らと同じところで笑い、同じ心で繋がったのです。今日の公演を、皆さんの心を育てる栄養にして頂けたら、とても嬉しいです」
和泉流の皆さん、非常に有意義なひと時を、本当にありがとうございました! 頂戴した色紙は、校長室と図書館に飾らせて頂きました。生徒の皆さん、いつでも見に来て下さい!





